坂本直行の版画
寄贈された木版画は54点で、彩色したと思われる1点を除きいずれもモノトーンで、風景37点、机上静物5点、その他静物(花・木など)である。版画サイズはB5版以下で、55?径の円形のものや50x80mmの小品もある。
直行は中学へ入学してから本格的にスケッチを始めたが、版画も中学4年から始めた。
「僕は絵の他に版画も少しやった。中学四年頃、僕に五万分の一地図の存在を教えてくれた今田求氏(北大林学の教授今田敬一氏の弟)が上京の時、僕が欲しがっていた木版のノミを四、五本土産に買ってきてくれたのが始まりである。はじめは版木がなくて百人一首の板カルタの裏をほじってしかられた。----------その後久世君の追悼録(1924年5月3日、銭函の天狗岳で墜落死した札幌二中旅行部員)をガリ版で出したが、この追悼録の表紙は僕の木版画にした。バレンがなかったので、本を丸めてこすったり、足で踏んだりして、木版を刷るのに三日も悪戦苦闘した時の印象が、妙に胸にこびりついていて、版画を見るとよくこんなことが思い出される」(北海道の山6号)
54点のうち出品先が明らかになっているものは少なく、札幌詩学協会が1925年に発行の「さとぽろ6号」の机上静物と風景の2点、部報(札幌2中「ヌタック2号」表紙、北大山岳部報4号扉)、その他雑誌表紙2点の6点である。札幌詩学協会が開催した第1回版画展(大正15年10月)に11点を出品したという記録があるが、どの作品かは明らかではない。北大山岳部部報の扉は1号から8号まで、直行の木版画(静物画)を使用している。
机上静物や植物のデフォルメしたものには閉じ込められた息苦しさを感じるものがあるが、風景に彫られた空や山の稜線、また平野やポプラなどには風景画に見られる伸びやかさを感じる。 雑誌<さとぽろ>同人で、北大山岳部部報表紙の作者の伊藤義輝は前述版画展の直行作品について次のように評している。「いくらか無用意な力の運びを惜しむが、坂本氏の素直さを取る。一寸エッチングの味です。がこのメディウムに依るからには、モチイフの心がもっと端的に生かされるべきではなからうかと思ふ」(資料1)
寄贈版画54点には伊藤義輝が<さとぽろ>に掲載したものが含まれており、すべてが自身の作ではないようである。
資料1:「札幌・大正の青春−雑誌「さとぽろ」をめぐって」1978年札幌市教育委員会コピー(宇野彰男氏(慶応登高会、JAC)提供)
資料2:道立文学館開館20周年特別展資料集「さとぽろ発見」平成28年1月
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