編集後記より
北大山の会が北大山岳部八十周年記念事業として行なった映像アーカイブス事業計画で様々な理由から積み残しとなった、海外遠征隊が撮影した動画類の永久保存のためのデジタル化は、2012年11月になってようやく終了することができました。北大山岳部・山の会(AACH)が母体となって派遣した遠征隊は、1962年のチャムラン峰遠征から今日までに17を数え、それらの遠征隊が残したフィルムおよびビデオは時間にして延1380分になります。北大山岳館はデジタル化したこの映像を、ぜひAACHの皆さんにご覧いただきたいとダイジェスト版作成を計画し、ビデオ作製ソフトを購入、2012年12月から自前で編集作業を始めました。
この作業に携わっていた山岳館運営委員の石田隆雄、山田知充、小野寺弘道の3氏と中村は、作業を続けていく中で、映像だけでは表現できないそこに集まった人たちの背景、決断、想いなどに多角的に照明をあてて、遠征史という形に残しておきたいと考えました。この考えを実行に移すべく2012年4月、上記4名で「AACH海外遠征史出版委員会立上げのための世話人会」を結成、ビデオブックを北大山岳部九十周年記念事業として出版する計画を作成し、同年5月末、小泉章夫山の会会長へ提出しました。
この提言は小泉会長はじめ、理事会の受け入れるところとなり、同年7月6日開催の山の会総会で会長より事業計画が提案され、全会一致で山岳部九十周年記念事業出版計画が承認されました。小泉会長は中村を出版委員長に指名、事業化に努力してきた世話人会は、同じメンバーで出版委員会事務局として出発、事務局は直ちに後記の方々に出版委員をお願いしました。
ビデオ編集は順調に進み、2014年3月に完成、この出版事業へご協力をいただいた会員に配布しました。17遠征隊を3部に分けて延130分に編集しましたが、動画のない隊、または動画はあるが画質が悪くて使えないなどの場合は、山岳館映像アーカイブス及び一部は隊員から提供していただいたスチールを使いました。会員の最も関心の高いと思われるチャムラン隊は、50年前のフィルムで、また保存状態が悪かったために劣化が進んでいました。しかし、ビデオ編集中にある会員から持ち込まれた隊員達の音声を録音したオープンリールテープ16巻を再生して必要な場面に挿入、それにより画像の劣化を多少とも補うことができました。
ビデオの体裁はDVD三枚組ケース入りですが、データのDVDへのコピー、レーベル及びケースのデザインと印刷、これら資材の手配はすべて澤柿教伸出版委員が無償で行なってくれました。その献身的な御努力に敬意を表するとともに、厚く感謝申し上げます。
遠征史に対する私達の編集方針は、チャムラン峰から現在までを「探検の時代」「ダウラギリの時代」「ポストダウラギリの時代」に区分し、各時期における各遠征隊の成立ちや登攀活動を記述し、全体として、AACHの海外遠征が現在に至るまでの精神面と実際面での大きな流れを感じられるものにしたいという事でした。そのためにこの企画の骨格となる通史「海外遠征の視点から見た−北大山岳部九十年の軌跡」の執筆を渡辺興亜・米山悟両氏にお願いしました。続いて“第一部 証言−その時代”で「探検の時代」に活躍した方々へのインタビューとチャムラン遠征当時の若者達による座談会、「ダウラギリの時代」および「ポストダウラギリの時代」の遠征隊員による座談会を開催しました。座談会は各コーディネーターの数ヵ月に及ぶ周到な準備の結果、全国からダウラギリの時代22名、ポストダウラギリの時代12名が山岳館に参集、歴史の掘り起こしに熱のこもった時間を過ごしました。彼らの貴重な証言から、その時代の海外遠征を具体的に読み取っていただけるものと思います。
“第二部 北大山岳部の海外遠征”は先の時代区分にしたがって、7編の再録、15編の書き下ろし紀行文を掲載しました。遠征隊員達が記したこれらの紀行には、バラエティーに富んだAACHの海外遠征が、時の流れと共に将来への希望を含めて、余すところなく語られていると思います。関係した方が死亡、あるいはご高齢で執筆を遠慮されているなどの遠征隊については、部報、会報、他の資料から再録しました。事務局からの様々な問い合わせにご協力いただいた方々、ご多忙中を快く力作をお寄せいただいた方々にあらためて厚く御礼を申し上げます。また、東京支部が中心となって挙行された創部五十周年記念山行カナディアン・ロッキーは副隊長だった木村俊郎氏に執筆をお願いしました。
山田知充氏による“第三部 AACHと野外研究”は、北大山岳部から育っていった多くのフィールド科学者たちの活躍を熱情を持って記しています。
“第四部北大山岳部のルーム”は、山岳部ルームの変遷と山岳館の海外遠征に果たしている役割についてまとめました。ルームの想い出をメールを通じて会員に募集したところ、大変な反響があり、ルームに寄せる会員の思いに感激いたしました。紙数の関係から寄せられた想い出を全部掲載できないのが残念です。山岳館建設に中心となって活躍した西安信氏の想い出は、建設当時の様々な困難に立ち向かって成就させた会員たちの粘り強い努力を教えてくれます。
本書の題名“寒冷の系譜”は、渡辺興亜氏の「AACHにおけるヒマラヤ冬期登攀」(バルンツェ厳冬期登頂報告1980/81)の一文から採りました。北大が大正期のスキー導入からヒマラヤ冬期登攀に至るまで追求してきた冬山登山の流れを、渡辺氏はこのように表現していますが、彼はその系譜の詳細を通史で解説しています。
小泉会長の適切なアドバイスは、編集作業を常に良い方向へ導いてくれました。松本山岳部長の出版経費募金のご努力に感謝申し上げます。
事務局の石田、山田、小野寺の諸兄には、ビデオ製作開始から今日までの2年半を真摯に協力していただきました。それは座談会などの集会の裏方、インタビュー・座談会の7時間に及ぶ録音テープ起し、原稿の校閲、地図の作成、資料の検索等々、数え上げればきりがありません。あらためて感謝申し上げます。 最後になりますが、本事業にご寄附いただいた山の会会員諸氏に心から御礼申し上げます。おかげさまでビデオブックを出版することができました。
2015年3月
北大山岳部九十周年記念誌出版委員長 中村晴彦
出版委員会
委員長 中村晴彦
事務局 石田隆雄 山田知充 小野寺弘道
委 員 安間 荘 吉田 勝 渡辺興亜 上野八郎 加納 隆 斉藤捷一 下沢英二 浜名 純 小泉章夫(山の会会長) 松本伊智朗(山岳部長) 竹田英世 米山 悟 澤柿教伸 銭谷竜一
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