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- 発行日時
- 2023-2-1 10:04
- 見出し
- コイカクシュサツナイ岳北面直登沢 冬季初遡行
- リンクURL
- http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-5139610.html
- 記事詳細
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コイカクシュサツナイ岳北面直登沢 冬季初遡行(アイスクライミング/日高山脈)日程:2022-12-10〜2022-12-11メンバー: nrtk7写真:左岸垂直からベルグラバンドトラバース。お宝発見!偵察通り左岸捲きを終えると素晴らしい光景が。氷が無限に続く。暗闇のピーク。傾斜は30~80度くらい。ピークが見えてきた?側壁からはいいのが無数に垂れてる。1p目成田60mWI4。見た目より傾斜ある。ひたすら登る。再び函となる。流石に勘弁してくれ。落ちるとドボン。2p目宇野60mWI4。函滝は直登できないので側壁の氷壁を登る。簡単な氷をフリーソロ。フォロー。すごい空間。2p目上部。20m程で傾斜は落ちるが滑滝が続く。初冬のコイカク沢踏み抜かないよう慎重に中を行く。左の氷瀑。左岸トラバースして氷柱の下をくぐって直登。難しくはないがずっと気が抜けない。落ちると数百mの滑り台。夜間登攀。直登沢出合いの氷瀑を見上げる。雰囲気出てくる。映える。右岸からお目当てのコイカク北面直登沢が氷瀑となって合流してきている。暗くなってくるが氷は終わらない。右股、函の始まり。側壁がいちいち面白そう。映え。函滝は右岸捲く。とりあえず登っておく。60mWI4+。2日目、前日の偵察通り下部函をへつる。感想: 「アイスクライミングをして山頂に立ちたい。登山の中の合理的な手段として、アイスクライミングという行為がしたい。」初めてアイスクライミングをしたときからずっとそう思っていた。僕の拠点である北海道はアイスクライミング天国だ。だが、アルパインアイスという観点で見ると寧ろ不遇なフィールドだ。層雲峡の氷も、雷電や雄冬をはじめとする海岸の氷も、全てトップアウトしたらただの平らな台地か雪壁に出るだけだ。そのゴールに山頂はない。勿論アイスクライミングそのものを目的として捉えれば、アプローチは極めて近いし、デカい氷、デリケートな氷柱、テクニカルなミックスなどよりどりみどりだ。だが、そうであるがゆえに氷を登る行為だけに純化されてしまい、最早あまりにも登山と切り離されてしまっている。では山の中の直登沢はどうなのだろうか。おそらくこれは道内のアイスクライマーなら誰もが思いつくだろう。そして次の瞬間には、北海道の雪の多さを思い出して、その発想を捨てたはずだ。すぐに雪で埋め尽くされ、雪崩の巣となるに違いない。あまりに危険すぎる。――本当にそうだろうか?本州で有名なアイスのエリアである甲斐駒は、太平洋側の気候であるが故に冬は基本的に乾燥し、降雪は少ない。だからこそ沢中の雪崩のリスクは比較的少なく、そこまで傾斜のない滑滝も雪で埋め尽くされない。北海道にもそのような山域はないだろうか?その条件を満たす山域には一瞬で思い当たった。北大山岳部の庭といっても過言ではない、日高山脈中南部がまさしくそれだ。そして幸いなことに、日高中南部には急峻な滑滝の連続する直登沢がひしめいている。そういう目で見れば、おそらくここは天国になることは間違いない。そう思い一昨年、昨年の年末年始に日高を単独縦走した際に直登沢の様子をよく見てみると、やはりそこにはあった。美しい蒼氷が。 しかし、これらを登るには問題があった。まず、日高の山にはほとんど登山道がない。つまり積雪がほとんどなく沢の雪崩の危険がない時期には、稜線やそこに上がるまでの尾根は基本的に藪漕ぎとなる。また、当たり前だがほとんどの沢の下部には釜や函を従えた滝が出現する。早い時期にこれがどうなっているか。山深さもネックとなる。ほとんどの山が普通に尾根歩きをしても稜線まで2〜3日かかる。それでも、大学生活すべてを懸けて通い詰めた日高の知識を総動員していくつか行けそうなところにあたりを付けていた。そのうちの一つが、コイカクシュサツナイ岳に突き上がるコイカクシュサツナイ沢(以下コイカク沢)だ。右股左股とあるが、どちらも条件は変わらないだろう。コイカクシュサツナイ岳には、夏尾根と呼ばれる実質的に整備された登山道が存在し、登山口となる札内ダムから、積雪期であれば登り1.5日、下り4時間程度で往復できる。アプローチは比較的楽で、下部の釜や函滝さえどうにかなれば遡行でき、下降も夏尾根を使えば暗闇の中でも可能だ。 2022年1月にカムイエクウチカウシ山南西稜からコイカクシュサツナイ岳まで縦走した際に、コイカクシュサツナイ川(以下コイカク沢)からコイカクシュサツナイ岳の北面に突き上げる直登沢に氷瀑がかかっているのを確認した。この時の下山日に未曾有の大雪が降り、帯広は日勝峠、天馬街道などが全て通行止めとなり札幌への道が全て閉ざされ、僕は帰宅難民となった。そこで帯広在住の宇野さんの家に急きょ泊めてもらい、通行止めが解除されるまでの2晩お世話になった。この時、冬の日高の直登沢の話題になり、宇野さんもコイカク沢に目を付けていたということが分かった。ではまだ雪の少ない次の11月下旬〜12月上旬に行きましょう。という話になった。 それから季節が一回りし、冬となった2022年12月3日、僕と宇野さんはコイカク沢から支稜上にあるピラトコミ山東面直登沢を、この時期の日高の沢のイメージを掴むことを目的として遡行しようとした。今年は例年になく季節の進みが遅く、山脈は黒々としていた。河原や側壁の斜面には雪はほとんどなく、しかしそうであるが故に側壁の微妙なルンゼが結氷し、白い筋となっていた。ピラトコミ東面沢そのものは、普通の冬靴で行ったため序盤はわずかな渡渉が面倒で、途中から釜が始まり、そこでは側壁に張ったベルグラでへつるという新しい遊びを若干楽しみながら通過していった。しかし、ようやく沢床が氷で埋められてきたという段階で、釜に張った氷を成田が踏み抜き太腿まで浸水し敗退となった。戻り際に、側壁の凍ったルンゼを2ピッチ120mで登り、一応1本クライミングをして帰った。気温がそこまで低くなく、釜や側壁に張る氷が脆弱であったのが敗因だった。しかし、今週ここからいよいよ気温が下がり、おそらく来週には条件的にはかなり出来上がっているだろう。そう話し、翌週12月10日と12月11日の2日間に本命のコイカクシュサツナイ岳北面沢を遡行することにした。12月10日 晴→雪 札内川ダムゲート(7:15)コイカク沢(7:45)コイカク沢二股(9:00-10:00)側壁氷瀑登攀開始(12:15)終了(13:45)二股(14:45)=C1 宇野さんと札内川ダムゲートで集合。自転車に乗ってコイカク沢出合いまで建設途中で放棄された道道111号線を走る。先週と比べて冷え込んでいるが、コンスタントに降雪もあったようで、山は少し白くなっている。道道からコイカク沢に入渓。今回は先週の反省を生かし、2人とも長靴で来た。出発から2時間ほどでコイカク沢右股と左股の分岐となるCo640二股に到着。二股にテントを張り冬靴に履き替え、とりあえず右股の偵察へ向かう。最初は雪のうっすら積もった河原で歩きづらい。30分程歩いて函に差し掛かる。函の内部は水面は普通に水が流れていて、側壁は氷柱が垂れ下がっている。ここでアイゼンに履き替えて、右岸を捲く。その後程無くして10m程の釜滝。滝は凍っているように見えたが、右岸から捲き気味にアプローチすると表面1cm程が凍っているに過ぎなかった。これでは登れないので右岸の氷壁WI3程度を捲く。そこから5m懸垂で沢に合流。少しの河原歩きを挟んで再び函滝。ここがCo760屈曲点。函側壁の氷を登ってからバンド状草付きを登って這い上がると、右右岸に氷の筋がいくつもかかっている視界に飛び込んで来た。思わず驚嘆の声を上げる。どれも50〜80mくらいはあろうか。とりあえずその先の沢を覗くと、すぐに函となっている。おそらく左岸を捲くしかないが、大掛かりなものになりそうなので今日はここまでとする。このままテンバまで戻るのも味気ないので、右岸の氷を登ってみることに。成田リードで1ピッチ60mいっぱい。WI4+程度だろうか。ちょうど層雲峡・錦糸の滝と同じようなスケールと内容だった。もう1ピッチ雪所々氷の沢型を詰め、藪漕ぎトラバースをしばらくしてから藪を繋いで斜めに降りて沢床に復帰。ちょうど面倒な釜や函の下降を回避できたようだ。テンバに戻り、ジンギスカンともつ鍋で宴をする。12月11日 晴→雪 C1(6:30)北面直登沢出合い氷瀑(11:30)コイカクシュサツナイ岳(16:45-17:00)二股(19:15-20:15)札内川ダムゲート(22:30) 薄暗い中出発。昨日と同じアプローチをこなし、函地帯まで。ここからは偵察通り左岸の緩斜面を登り藪に突入し左岸を捲く。Co790屈曲まで藪を漕いで適当な緩斜面を伝って沢に復帰。ここから側壁は更に高くなりいよいよ核心部といった風景となった。幸いにもここからは沢が比較的凍っていたり雪で埋まっていたりして歩きやすい。それでも所々踏み抜きがあるので注意しながら進む。たまに現れる釜や淵は側壁に発達した氷をトラバースして突破していく。アイスボルダ―のような感じで楽しい。少し進むと15m程の函滝。下まで繋がっていない氷柱なうえに下が釜となっているたので左岸氷壁のWI3程度をフリーソロで越えてトラバースして捲いた。続けざまに釜持ち滝。これも釜のせいで取り付けないので左岸氷壁から捲いた。この辺り以降の側壁には一級品の氷が無数に垂れており2人とも目を輝かせながら進んでいく。両岸とも立った壁となって(左岸は氷壁)沢が左に曲がる所に入るとすぐに右に曲がる15m滑滝。これは完全に結氷していた!決して難しくはないが、2人して「こういうのがやりたかった!」と喜々として登る。ここを抜けるといよいよ両岸が100m以上切り立った日高らしいV字谷となり、側壁からは幾筋もの氷の筋が僕らの立つ沢に落ち込んできている。圧巻だ……。思わず目移りしてしまうが僕達の目的はアイスクライミングをしてコイカクピークにダイレクトに立つことだ。氷柱の横をすり抜けたりして雪で埋まったゴルジュ帯を歩いていく。再び7m程の函滝。ここも滝下は水流がドバドバなので取り付くことはできないので捲くしかない。両岸立っているが左岸が何とか行けそうなので本日初めてロープ出して成田リードで取り付く。垂直氷壁を7m程登ってからベルグラの張ったバンドを7mトラバース、更に2mクライムダウンしてから微妙なフッキングで滝の落ち口に蹴り込んで突破。ゴルジュを再びラッセルするとまたしても10m函滝。これも滝下は釜となっていて普通には取り付けない。左岸からトラバースして氷柱状のカンテを乗り越え、更に氷壁を左トラバース、垂れ下がった氷を破壊して凍った滝本体にアックスを打ち込んで取り付き、あとは快適な氷を登って突破。ここを越えると奥に右岸側壁から氷瀑が合流してきている。どうやらこれがコイカクシュサツナイ岳ピークにダイレクトに突き上げる直登沢の入り口のようだ。夏にはここはハングした側壁からシャワーが降り注いでおり相当厳しいらしく、未登らしい。今は快適な氷瀑となっており、2人とも思わずニヤける。全てが想像通り、いや想像以上だ。 滝下でロープを出して取り付く。1ピッチ目は成田リードで60mいっぱいWI4+程度、下から見上げるよりも長く(アイスあるある)、滝の途中のテラス状でスクリューで切る。2ピッチ目は宇野さんリード、最初の20m程はWI4+くらい、そこから傾斜は堕ちるがまだ40〜60°程度の氷が続き60mいっぱいでスクリューで切る。3ピッチ目は成田、傾斜の緩いクーロワール状に張った氷を30m程度で次の滝の下の完全結氷した釜まで行き凍り付いた倒木で切る。 この先もまだまだ滝は続きそうだがもう難しいものは出てこないだろうということで、ロープはしまう。次の滝は20m程度だが60°くらいなのでフリーソロ。これを越えてそろそろ終わりかと思ったらそんなことはなく、再びゴルジュ状に。しかもその上にまだ氷瀑が見える。おいおい、まだ楽しませてくれるのか。ゴルジュ状は雪が詰まっているように見えたが、スカ雪で踏み抜くので、側壁ベルグラをつっぱりで越えていく。その上の氷瀑は60〜70°くらい。これもロープは出さずに各々思い思いのラインを登る。この上にもまだ滝が出てきたがこれも難しくはないのでフリーソロ。この上にも滝。これを越えてもまた滝。越えても越えても次の滝が現れる。イメージでは高低差300m程登ったらあとはラッセルかと思っていたが、どうやらそんなことは無さそうだ。次第に滝と滝の間の緩傾斜雪壁(=安定して立てる所)も少なくなり、30〜70°の氷壁がひたすら続くようになる。しかも標高が高くなり気温が低くなるにつれて氷も硬くなり疲れる。ツルツルの硬い氷なのでフロントポイントを蹴り込んでアックスを打ち込まなければならず、特に傾斜が緩いと腕立て伏せみたいな体勢になって逆につらい。 それでも、つらさよりも興奮が勝っている。大好きな日高の山で、大好きなアイスクライミングをしてピークへと歩みを進めているという事実がとてつもなく貴く感じられる。ふと振り返ると適当な尾根や稜線へと突き上げている無名のルンゼ群に素晴らしい氷が張り巡らされている。美しい。全部登ってしまいたい。そう思いながらアックスを振り、アイゼンを蹴り込み、一定のペースで登っていく。 気が付くと時間が押しており段々と薄暗くなってきたので、辛うじて見つけたテラス状で休憩し、ヘッデンを装着。暗くなっても滑滝は容赦なく続く。流石に「もう勘弁してくれ……」なんて思いながら登りまくる。最後は20m程ラッセルをすると、ポンと平らな所にたどり着いた。ピークだ。美しいラインが完成した。宇野さんと抱擁を交わす。ピークは軽く吹雪いているので、ちょっとした余韻に浸った後そくさくと下山開始。コイカク夏尾根は事実上の登山道とは言え、上部は油断できない。岩稜帯を慎重にクライムダウンし、下部はうっすらと新雪の乗った斜面を滑り降りてテンバまで。疲れたので泊まってしまいたいが今日下山の計画なので荷物をパッキングしてコイカク沢を下る。道道に出て、暗闇の中自転車をこいでダムゲートまで。もう遅いので成田は宇野さん宅に宿泊し、翌朝帰札。 ずっと夢見ていたクライミングを、想像以上の内容で行うことができた。沢を下部から詰めてピークにダイレクトに立つというラインの合理性、そのクライミングの内容、全てが理想的だった。日高という僕と宇野さんにとって特別な山域で、こういう新しい冒険ができたことがこの上なく嬉しく思う。この山はいつでも僕に最上級の喜びを提供してくれる。また、ここに戻ってこよう。