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山の会昔語り・ 2008年1月4日 (金)

山の会裏ばなしー(16)コッヘルは丸いもの
コッヘルは丸いもの


       北大山の会東京支部・木村俊郎(1950年入部)
これは小生の失敗談である。入部して二年もすると山の道具は大分揃ってくる。こうなると、もっと便利なものはつくれないものか思ったり改造してみたいと思うのも当然だろう。

こんな時に思いついたのがコッヘルの改良である。コッヘルは積雪期には必需品だったが丸いのでパッキングはとても不都合だと思っていた。多人数の場合には大型のものを使うので横から見ると長方形なのでそれ程でもないが、少人数用のものは鍋底が小さくなっていて横から見ると三角の台形でバランスが悪い。小型ではあるがキスリングのザイテンには入らない程の直径なのでルックの中に入れるとゴロゴロしてバランスが悪い。夏山で炊いた飯の入った飯盒はそのまま蓋を上にしてザイテンに入れればよい。そこで、四角なコッヘルを作ってみた。工作は意外と簡単でアルマイトの弁当箱三つでできた。一番外側には、二食弁当という所謂ドカタ弁当を使い、大きさが真中の物は底を切り取って周りに孔をあけて五徳にし、それよりは少し小さいのをズッペ用の鍋にして一番大きな蓋はフライパンになった。三つ重ねると立派なコッヘル。四角なので、きっちりとパッキングできた。

単独行にはもってこいだと思い、ヘルベチアヒュッテから朝里岳を横ぎって余市岳あたりに雪洞を掘って一泊して定山渓へ抜けてみようと考えていた。しかし、この話を聞いた石谷邦次君通称バスコムが同行することになった。二人なら余市岳の肩で豪勢なイグルーが作れる、という訳で銭函でハムやソーセージを沢山買い込んでいった。天候は快晴、イグルーも立派なものができた。さてコッヘンを始めるとアルコールランプはよく燃えたが四角なコッヘルは四隅に火がよく回らないせいか隅のほうはメッコになってしまった。豪勢に買い込んだハムやソーセージがあったおかげで蓋をフライパンにして辛うじて夕食の腹は満たすことができたが、食後これを洗う段になると、雪山での少ない水では隅の方は綺麗にならない。続けて使うには不衛生と知る。翌日はメッコ飯でのお粥の様な物を作って食べ、空き腹ながら白井川から定山渓駅に着いたまではよかったのだが、ここにも誤算があった。定山渓鉄道すなわち定鉄は当時、豊平駅経由で苗穂が終点だったが、月初めに値上げがあって、ギリギリ一杯に残した電車賃では三十円程足りなくて、石切山駅まで。目一杯まで買ったソーセージなどを恨むわけにもゆかず駅前交番で百円借りて帰る羽目になった。後で知ったことだが石谷君はちょっと余分の金をもっていたらしい。すました顔をしていた彼はYashiがどうするのか見たかったのだという噂だった。やはり彼はあだ名の示すように悪漢バスコムだった。それは、さておき本題のコッヘルは丸くなくてはいけないものだと思い知らされた。

それもその筈である。人間は有史以来、丸い鍋を使っていたではないか。
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