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書評・出版・ 2006年6月28日 (水)

書評)サバイバル登山家(米山)

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サバイバル登山家
服部文祥著
みすず書房(2006.6)

服部文祥はいま岳人の編集部にいて、僕にイグルーで登る山(テントを持たずに雪山へ行こう)という文章を書くよう勧めてくれた。道具を持たずに山に行くと、体は自由になり、身に付いた体術と知識で山の中を渡り歩いていける。そういう喜びを実践した記録だ。夏はストーブ無しの焚き火で長期山行をし、冬はテントを持たずイグルーで登る北大山岳部の御同輩だ。共感する。

氏はこの思想をフリークライミングから得たという。たしかに言われてみれば納得だ。Freeという言葉が、「道具無し」という言葉と「自由」という言葉の2つの意味を持つことに納得がいく。「タダ」という意味もあるのがなかなか深い。

表紙はシャケを喰うクマみたいに氏がでかいイワナをつかみ食いしている衝撃的な写真だ。読んでみると蛙を喰う話が平気で書いてあり、オレにはちょっとそこまではなあ、などとも思うのだが、実はこれ、捌いたイワナの皮を、前歯でひっぱってむいているところなのである。つまり、お刺身にして文化的に食べようとしているところ。映像ってのは本当に刺激が強い。「前歯でひっぱると皮が簡単に剥ける」とあるので、僕もシメサバを仕込むときやってみた。これは便利、以後真似しよう。指でいじいじ剥くより早い。

いままで僕などは踏んづけて歩いていた草だが、食べられる草を紹介してあり、興味が湧いた。山が豊かであるほど、人は手ぶらで入山出来る。電源開発で固められると、サカナが減り、手ぶらでは飢える。クマの身になって考える事ができる。道具持ち込みで山に行ってはそういうことに気がつくまい。

「舌はうまいかまずいかを感じる器官ではなく、食えるか食えないかを感じる器官だ」に同意。
読書中、ちょうど3ヶ月ザックに入っていたチーズを発見(3月知床のあまり)。銀紙の下はカビだらけだったが、これを丁寧にオピネルで削いで、中の部分を食べ、舌で転がしてみた。凄く臭い家畜小屋のような臭いがするのにうまい。いつかヨーロッパで食べたクサクサチーズのうまみになっていた。こういうことを話すと人はイヤーな顔をするが、食えるものか食えないものかを自分の舌で判断できず賞味期限見ただけでポイするような者が、あの店はうまいだのまずいだの言うのは、おかしくて聞いていられないと僕は常々思う。

フンザで肉屋が牛の頭を石で叩いて殺し、肉を切り分ける様を書いた一文がある。最近「いのちの食べ方」(森達也著)という子供向けの本を読んだ。日本でもどこかの誰かが牛を屠り、うまく肉に切り分けてくれるから毎日肉を食べている。なのにその様子は世の中に知らされない。自分で殺生してこそ、食べ物をありがたく食べられる。

冒頭、3月下旬の知床単独行の最中、南岸低気圧の直撃を受け、テントをつぶされ雪に埋まって4日間過ごす一文から始まる。「いちばんやばい状況で、いちばん居てはいけない場所に、自分がいる。」あの稜線で低気圧を迎え撃った経験を共有する、仲間意識が湧いた。ただし僕は完全なイグルーで武装し、三日間の爆風に耐えた。外に顔を出せば、まるで滝壺に落ちたときのようにもみくちゃの暴風雪の三日間だった。テントなら死んでいる。

氏にイグルーの作り方を教えて欲しいと言われ、是非にと返事をしたけれど、まだ約束を果たせていない。
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