書評・出版・ 2025年12月25日 (木)
【讀書備忘】シリアの家族 小松由佳 米山悟(1984年入部)

もはや日本初のK2女性登頂者というより、戦国シリアのフォトグラファーという存在になった小松由佳氏。学生時代の登山活動からラクダ遊牧で暮らす大家族ベドウィン族取材に転じて、内戦前の平和だったシリアを知り、ベドウィン家族の一員になり、2012年以降家族は難民生活を13年、昨年12月8日のアサド政権滅亡で難民の夫ともに念願の帰郷をするノンフィクション。
小松さんの人生そのものが充分破天荒ストーリーなのであるけれど未来にどうなるのかは本人含めて誰にも予測できなかった。そして何かを期待して、何かを目指して進んできたというより、20代に関わった、ある魅力ある人々との関係を、とことんやめなかったのだ。やり抜く力を持った人なのだと思う。私は、K2の氷壁も、砂漠のラクダ使いたちとの暮らしも、同じようにそこにともにいる人々の魅力なのだと思う。小松さんを推し動かしてきたのは、周りの魅力ある人々なのだと思った。そして、人生の舵だけは人に渡さず、子供も背負って嵐の波間を進んで来た。
前書2020年「人間の土地」のあと、2022年の圧政下、かつて家族がいたパルミラの、家族の廃墟の写真を撮るために入国。秘密警察に妨害されながらの取材がこの本の山場かと本人も思ったかもしれないが、現実は世界情勢の影響で大きく変わり、その2年後、政権崩壊の10日ほど後に再びパルミラを訪ねた。行方不明の兄が獄死したサイドナヤ刑務所の生々しい廃墟のルポと生存者のインタビュー、旧体制下を生きてきた人と難民帰還者との関係など、1989年東ドイツ、1976年文化大革命終焉、それに1945日本とドイツその占領地にもあった、混乱と希望の混在するカオス。最後まで読ませる、メタファーに満ち巧みなレトリックあり、スジの通った文章だった。しんどい経験だけど、見て伝える人がいてほしい。同時代なんだ。
人は20代でその後の人生に影響の強い人間関係を築き、30代で仕事を一人前に身に着け40代でマスターピースを作る。その後も優れた傑作は生まれ続けるけど、小松由佳43歳、良い人生を歩んでいるな、と思う。二人の息子の未来も楽しみだ。
【以前の書評】
オリーブの丘へ続くシリアの小道で
https://aach.ees.0g0.jp/xc/modules/AACHBlog/details.php?bid=745&cid=7
人間の土地へ
https://aach.ees.0g0.jp/xc/modules/AACHBlog/details.php?bid=779&cid=7
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