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書評・出版・ 2005年11月11日 (金)

書評・コンティキ号探検記/(米山)

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コン・ティキ号探検記
T.ヘイエルダール著
水口志計夫訳
ちくま文庫
本屋の寂しい町に引っ越してしまったので、これまで家に買い込んだ本と、図書館通いが読書の糧だ。こういうときには古典に限る。というわけで、漂流記の古典中の古典を読みました。古典の良いところは必ずハズレが無いことです。久々に本屋で買える本の書評です。ここ数年の本で一番おもしろかった。



札幌から函館に向かう函館本線の列車で読んだ。

1947年。ノルウエイのトール・ヘイエルダールが、ペルーからバルサ材の筏でインディオ達が流れ着いたという学説を裏付けるため、自ら筏で南米沖からポリネシアに漂流した、その漂流記。

何より文章がおもしろい。村上春樹くらいはおもしろいんじゃないかな。いろんな人々やいきさつが、とてもコミカルに書かれている。こっけいに書かれてはいるが、一介の研究者がペンタゴンの兵站担当者やエクアドルの軍司令官やペルーの大統領に会見を求めて協力してもらう話をまとめていく様は凄い。企画力と、行動力も並はずれていたのだろう。この時代、世界はもっと探検に理解があったのかもしれない。

20mもある巨大ジンベイザメの顔がマヌケだからといって、6人みんなが指を指して狂ったように笑い転げるくだりなんかは最高だ。さまざまな生き物が筏を見物に来て、また別れていく。波濤を立てて進む船でしか海を渡ったことの無い人には気づかない、海水面近くの様々な生き物との出会いがおもしろい。クジラから、プランクトンまで。ヘイエルダールによれば、がさがさと森の中を行く者には何も見えないが、腰を降ろし、静かにしていれば様々な生き物の気配をすぐに感じることが出来る。それと同じだ。

出発前、船乗りは揃って危険だからやめろと言ったが、漂流の経験者はいなかった。筏が荒波に対しては水を逃がしてしまい優れていること、丸太を結ぶ縄が柔らかいバルサ材に食い込んで、まったくすり切れないことなど、誰もやったことがないからわからなかったけれど、多分インカの時代はこうだったという確信で実行し、どれも成功を実績で確認していくのが凄い。筏と船と、漂流と航海とは全く違う行いなのだ。

椰子の実、サツマイモの伝搬に関しても納得いく記述がある。水も何とかなるし、魚なんか放っておいてもトビウオが毎日筏に飛び上がってくる。そのトビウオをエサにマグロを釣る。シルクの網を引っ張って走ればプランクトンやちりめんじゃこをスプーンでもりもり食べられる。「餓死するなんて不可能」らしい。

昼も夜も、ただの漂流物になって海流に乗っていくと、大自然の猛威とはぶつからずに、筏の上の波のように、さっとくぐり抜けて、「それ」と一体になってしまうのだ。手ぶらの美学がここにもあった。

ヘイエルダールの学説は航海前は学会からまったく無視されたが、ポリネシア各島の「先祖は海の彼方から来た」の口承がこの漂流によって証明された。

函館本線は噴火湾沿いを長く走る。海の上を走っているようだ。夕方、海と空の色がどんどん変わっていくのを眺めながら読んだ。

コン・ティキ号探検記
T.ヘイエルダール著
水口志計夫訳
ちくま文庫
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