書評・出版・ 2026年2月25日 (水)
【讀書備忘】凪の人 山野井妙子 柏澄子著 米山悟(1984年入部)

世界で最も気になる女、山野井妙子の評伝。妙子は1956年生まれで、私の8年上だ。山岳部では清野さんと同年ということになる。生い立ちはもちろん、80年代〜90年代の若い頃から、2000年代以降の山野井泰史とともに高峰クライミングに登る歴史がまとめられている。同時代で生きてきた、折々の記憶が、この本で整理された。
80年代の奔放な若い頃の話がいい。自由で同じ夢を持つ仲間とのシャモニーの雰囲気、ヨーロッパからヒッチハイクで帰る自由な懐かしい時代だ。クライミングが好きだという柱からブレないところがこの人の個性なのだとわかるが、それは元にもあったけれど、時間を経て確かになっていったのだと思う。
原真の高山研究所にもいた。若い時、確かなことはわからないときは招かれたところにも行ってみる、そうしたことがなにかの作用になっていくけれど、本人を含めて、あとになってみなければ誰にもわからない。エリザベスさんとケーキを食べに行って体重を減らさなかった話がとても面白かった。
夫、山野井泰史氏と、眼の前でお互いに何度死にかけているんだ。相手が死んでいないとわかれば淡々とやるべきことをこなして生還への段取りに入る二人。戦国最強のカップル、木曽義仲と巴御前を思い起こす。ともに登るクライマーたちは妙子に誘われればみな喜んで二つ返事で加わる。
ぼくは、この二人に関しては、いつ死んでも悲しまないと思う。人生を自分の舵を切って進んできたのだということをずっと昔からよく知っているから。死そのものを越えていると思っている。死ぬ時自体に意味はなくて、それまでの生を、いつもいつも生きているかが人生なんだ。人生とは何かを、山を通して僕なりに考え続けてきたひとつの完成形が、この二人だ。
彼女の魅力はクライミング以外の世界にも満ちている。器用な倹約家、というけれど、僕のじいちゃんはまさにそういう人であり、以前の日本ではよくあった価値観だと思う。そんななつかしい価値観も、彼女の魅力の一端だ。
妙子氏は自分で本を書くような人では無さそうだし、たぶん詳しく憶えてない、と言われてしまうであろう大昔の話のインタビューを隅々までまとめ、記録や記事を辿り、評伝をまとめてくれた著者にとても感謝したい。表紙絵もタイトルもすごくいい。
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