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書評・出版・ 2008年2月28日 (木)

【書評】旅の本三冊/米山84
真の登山家は真の彷徨者である(マンメリー)。山岳部員ならわかる、旅の名作三本の紹介。

●ジャックロンドン放浪記
●チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記
●ダブ号の冒険

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●ジャックロンドン放浪記
小学館地球人ライブラリー14(1995.4)
ジャック・ロンドン著、川本三郎訳

犬やオオカミが主人公の小説「ホワイト・ファンク」や「荒野の呼び声」の著者ジャック・ロンドンは、16歳のころ、アメリカの大陸横断鉄道をタダ乗りして渡り歩く放浪者「ホーボー」だった。19世紀末アメリカの、ならず者は殺しても良いという雰囲気。鉄道員に放り出されては裏をかき、放浪罪でデカにつかまればムショ暮らしもする。文無し、毛布無しで酷寒の列車の連結部に隠れて旅、見知らぬ町で智恵と機転で食べ物にありつく青春放浪記だ。手ぶらの人間の、磨けるだけ磨ききった生存性能に憧れた。

犬が主人公の「荒野の呼び声」は、当然ほとんどセリフ無しの小説だがすこぶる良い。こうしたら、こうなった。こうだからだ。といった、淡々としているのに引き込まれる書きっぷりの原点をホーボー経験に見た。100年前の世界は何もかも野放しでおもしろい。



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●チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記
エルネスト・チェ ゲバラ (著),棚橋 加奈江 (翻訳)
現代企画室; 増補新版版 (2004/09)

1956年キューバ革命でカストロと知り合う5年前、医学生時代23歳のゲバラが故郷アルゼンチンからチリ、ペルー、ボリビア、コロンビアと、始めはオートバイで、それがポンコツで動かなくなってからはヒッチと密航で旅をする旅行記。あのかっこいいゲバラにそんな青春があったなんて。伝説の革命家の印象とはほど遠い、いかにせびって食べ物と寝床とできればワインをいただけるかという貧乏旅行テクニックが披露されている。人生に必要なものはすべて旅から学んだというゲバラ。1950年代の南米各地の様子も語られていて興味深い。今も大差が無いのだろう。合衆国の植民地体勢に刃向かって殺されたゲバラは21世紀的にはオサマ・ビン・ラーディンと同じだろう。オサマも学生時代に中東大旅行なんかしているだろうか。

ただしこの本、原文に忠実に訳したのだろうが、日本語としては非常に読みにくい訳だ。



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●ダブ号の冒険
小学館地球人ライブラリー14(1995.6)
ロビン・リー・グレアム著、田中融二訳

1965年、16歳のロビン少年の5年をかけた単独ヨット世界一周の記録。各地でのとけ込みようが旅行記として良い。冒険モノとして読み始めたが、フィジーで出会った少女パティとの恋愛が冒険の展開も読者の行き先も変えていってしまった。パティがヨットの寄港先に先回りして迎えてくれる。航海の孤独を10代の若さで耐え抜いたロビン。パティ無くして航海は貫徹できなかったろう。全編に、世界や人生にたいし共感する思想があふれている。うなずきながらの読書だ。16歳は世界を知るのに十分な年齢だ。

解説を書いている今給黎教子さんは僕と同年代のヨット家だ。91年に単独無寄港世界一周をやった。この人は子供の時「ダブ号」を読んでヨット道に入ったらしい。計画を遂行するまでの教子さんの気持ちの揺れがよく分かる気がする。


  • コメント (3)

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コメント一覧
米山   投稿日時 2008-3-20 21:09
「ツバメ号とアマゾン号」を読んだ。探険を誘う夢いっぱいの本だね。「焚き火の火種を翌朝までもたせるには、寝る前に土をかけておけばよい」と、いつかGGが言っていたのを憶えているが、これがネタ本だったか!

ヨットの扱い、夜の航海、焚き火の支度、入り江への入れ方など、何をとっても探険に憧れるイロハが満載。休戦交渉、宣戦布告、侮辱を受けたときの紳士的対応、捕虜の処刑方法、と子供がここまでなりきって遊ぶのが、さすがビクトリア朝時代のイギリスのガキどもだ。

こういう遊び場は北海道では・・・朱鞠内湖あたりでできるだろうかね。

ビクトリア朝時代の子供の冒険話といえば、「トムは真夜中の庭で」(岩波少年文庫)で、凍った川を何キロもスケートで遠出する話があった。

アーサー・ランサムの同時代イギリス人がアーネスト・シャクルトン(10年上)やW.H.ティルマン(10年下)というわけで、さぞやこんな子供時代をと、そんな事も思い浮かべたりした。
米山   投稿日時 2008-2-29 20:37
ヨット部が競技じゃなくて遠洋航海部だったら僕もクラクラなびいたかも。

夏メインは北海道沿岸一周航海、冬メインは沿海州アタック、卒業山行じゃなくて航海はハワイアタックとか。

しかしそんなクラブでは正に留年確実。
高橋GG   投稿日時 2008-2-28 22:55
岩内の大先輩を引き合いに出すまでもなく、
山からヨットに転じる例は意外に多い。

かくいう小生は、小学校の図書館で誰も借り手がなかった岩波の分厚いアーサー・ランサム全集を全巻読破してセーリングというものを知った。

高校では山岳部だったが、
北大で最初に入部したのはヨット部。
結局、競技スポーツじゃなくて冒険がやりたくて
山岳部に入りなおしたけど、470で疾走する快感は今でも忘れられない。

阿片戦争時代の英国海軍軍人の留守を守る子供たちの冒険。それを信頼して見守る母親。
「ツバメ号とアマゾン号」は、ある意味私という人間の原点です。
 
 
 
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